本研究プロジェクトが目指すもの
多文化共生社会の構築に向けた異文化理解教育においては、文化的差異に関する個人間での理解や受容だけではなく、集団内および集団間での対話や調整の過程が不可欠となることが近年指摘されてきました。本研究プロジェクトでは、日本・中国・韓国の大学の通常の授業を結び、文化的背景の異なる受講者たちが授業内で集団的対話における関係調整を行うことを通して、共在的実践を生み出すことのできる、新たな対話的異文化交流授業を開発することを目指します。
本研究プロジェクトの特長
(1)異文化交流授業における共在的実践の生成過程およびそれを促す授業デザインの解明
これまでの集団間対話を通した異文化交流授業では、受講者が相手集団の態度や考え方を了解可能なものとして受け入れるものの、自身のあり方とするには抵抗があるという状態まで到達することが確認できています。本研究では、このような葛藤状態を越えて、受講者が双方の差異を相対化し、相手集団を不可欠な存在として位置づけなおす新たな文化的実践(共在的実践)にまで到達するプロセスと、それに対する有効な教育的支援の方法を心理学における質的な手法を用いて詳細に明らかにします。
(2)相手集団との対話過程で経験する否定的情動への着目
共在的実践の生成にかかわる重要な要因として、受講者が相手集団との対話で経験する否定的情動に着目します。従来、否定的情動は文化的他者との良好な関係を阻害する要因として捉えられ、抑止・制御という方向で検討されてきました。しかし、否定的情動が共在的実践の生成において積極的な機能を果たす可能性がこれまでの研究から示唆されています。本研究では、異文化理解における否定的情動の機能に関するこのような仮説をふまえ、受講者の異文化理解の変化に有効に作用する形で葛藤などを経験させる手法の開発を目指しています。
(3)実施が比較的容易な異文化交流授業の模索
従来、大学における異文化交流授業は、準備や実施にかかる手間が大きく、通常の授業枠での実施は容易ではありませんでした。これに対して、本研究プロジェクトでは文化的差異が顕在化しやすく受講者が葛藤を経験しやすい素材の開発、翻訳アプリ、タブレット端末、Webサイト等を用いたコミュニケーション支援、授業スタイルの定型化などを通して、授業実施における授業者の負担低減を図ります。
研究方法と実施体制
本研究プロジェクトでは、4組の授業実施チームを構成し、交流授業の計画・実施・分析を行います。同時に、授業実施チーム間での授業実施結果とその分析を交流し、共有を行います。
日本-韓国チーム:呉宣児(共愛学園前橋国際大学)・崔順子(国際児童発達教育研究院)・高橋登(大阪教育大学)・朴聖希(奈良女子大学)・シム ヒョンボ(慶熙大学校)
日本-中国チーム①:榊原知美(東京学芸大学)・渡辺忠温(東京学芸大学)・片成男(中国政法大学)
日本-中国チーム②:横山草介(東京都市大学)・周念麗(華東師範大学)・山本登志哉(発達支援研究所)・横山愛(東京家政大学)
日本-中国チーム③:高木光太郎(青山学院大学)・田島充士(東京外国語大学)・姜英敏(北京師範大学)